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の非合理が癌の告知の問題で歪みを生じていることを指摘している。
抑鬱傾向をみるための評価尺度であるSDSテスト(Self-Rating Depression Scale)はDuke大学のZung,W.W.Kによって開発されたものであるが、質問項目が20項目と比較的少ないため、疲れた末期癌患者に対し、抑鬱傾向を調べるために協力してもらえる検査として適当と考えた。
また、エコグラムは改良された質問項目が60項目のものもあるが、質問項目の少ない50項目のほうを選んだ。理由はやはり心身ともに疲れた患者には少しでも負担が少ないほうがよいと考えたからである。
日野原3)は癌の受け入れ方が患者の年齢によって異なることを指摘し、患者は若ければ若いほど死への心の準備を備えることの困難性を述べているが、われわれの例でも前述のように53歳の若い直腸癌患者が仕事が順調なところで癌になった例は、やはり死への心の準備が困難であった。白井4)はエコグラムの分析結果について、自分の状態を静かに受け入れることのできたものは、「成人」のスコアが高く、また、「自由な子」のスコアが「順応の子」よりきわめて高い場合は、身勝手な振る舞いが多い傾向を指摘している。われわれの例でも81歳の肺癌患者は、「成人」のスコアが高く、自分の状態を容易に受け入れることができたが、53歳の直腸癌患者は若いことの他に、エコグラムで「自由な子」のスコアが「順応の子」のスコアよりもきわめて高いことが加わって身勝手な振る舞いの多い原因になったと考える。しかし、このような振る舞いをする患者の背景を考えたとき、日野原7)が指摘しているごとく聴診器を患者の胸に当てたとき、悲しみや助けを求めることの重要性を述べているが、この患者の心の背景を把握できなかったことを反省している。
まとめ(結語)
研究対象は、聖テレジア病院で入院中に関わり死亡した113名の中の末期癌患者45名である。
末期癌患者は、入院当初は苦痛の除去に重点が置かれるが、苦痛の和らいできたころには徐々に末期状態が近づき、今度は精神的・霊的ケア、いわゆるSpiritual Careが重要な部分を占めてくる。著者はこのSpiritual CareのためにPastoral Careを導入して、死に対しそれですべてが終わりでなく、新しい命に期待がもてるように指導を行った。
概して高齢で末期癌になった人は、死の受容が容易であるが、若くして仕事盛りの人が末期癌になったときは受容が困難なため、より多くの精神的援助が必要である。
ここで患者の心の状態を理解するためにはエコグラムやSDSテストを用い、また臨死患者に接する医療職者には自分の専門職以外の一般教養を広く学ぶように心がけた。
一般に病状が悪化すると、精神的・霊的助かりを得たいと考え、洗礼をを受けるなどの方法で死の準備を整えることが多い。
文献
1)アルフォンス・デーケン:「世界のグリーフケアから考える日本の課題」、生と死を考える会会報No.47:2−5.1996
2)日野原重明 仁木久意訳:平静の心オスラー博士講演集、医学書院、P489.1983
3)日野原重明:死に臨むものへのアプローチ「特集−医療における芯とことば各論」、日本医師会雑誌、101:1073−1076.1986
4)白井幸子:医療における交流分析「特集−医療における芯とことば?」、日本医師会雑誌、103:492−498.1990
5)日野原重明:医学と宗教の接点…人の命をどう考え、どう扱うか、日本医事新報、No.2677:63−67.1975
6)日野原重明:オスラー「平静の心」に学ぶ「特集−医療における芯とことばV」、日本医師会雑誌、105:514−519.1994
7)日野原重明:患者と医師(3〕「特集−医療における芯とことば?」、日本医師会雑誌、105:514−519.1994
8)重兼芳子:知性と祈り「特集−医療における心と

 

 

 

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